魅力を伝える人は、もう力を持っている
「書くのが一番苦手で、喋るのが一番得意です」
そう笑うコマツマヨさんは、13年にわたりインタビューを主軸に活動してきたライターです。採用インタビューだけでも500人、600人規模。けれど、その肩書きの核にあるのは、単なる“聞き手”ではありません。コマツさんは、相手が思わず本音をこぼしてしまう空気をつくる人です。ご自身でも「おしゃべりしに行ってる感覚なんですよ」と話すように、緊張を解き、場をやわらかくし、その人らしい言葉が自然と出てくる瞬間を待ちます。
その素顔は、仕事だけに閉じていません。普段はお子さんとペットに囲まれて暮らしながら、ときどきふらりと一人旅に出る。沖縄には60回以上、東南アジアにも幾度となく足を運んできました。「飛行機に乗ってるだけで着く」という言葉には、コマツさんらしい軽やかさがあります。けれど、その自由は偶然できたものではありません。好きな旅を続けるために、収入を整え、体調を守り、家族を預けられる環境をつくる。気ままに見える日常の裏に、暮らしを自分で整える意志があるのです。
魅力を伝える人と言葉の意味
コマツさんが大切にしているのは、「その場が楽しかったな、喋ってよかったな、で終わること」です。インタビューでは、その場に流れた空気や相手の温度を大事にする。なぜなら、楽しく話せたという感覚は、その場でしか生まれないからです。言葉を集めるだけなら、質問票でもAIでもできる時代かもしれません。けれど、相手が「この人になら話したい」と思える空気は、人にしかつくれません。コマツさんは、その価値を感覚ではなく、職業意識として磨いてきました。
その強みは、現場での信頼のされ方にも表れています。採用インタビューの現場では、ディレクターや担当者が途中で離席しても不安がない。「この人なら、必要なことを聞いて、ちゃんと盛り上げて、時間内に終わらせてくれる」。そんなふうに“丸投げできる人”として頼られてきました。コマツさん自身も、その理由を「連れて行っても恥ずかしくないライターであること」と表現します。依頼主の顔も、取材先の顔も潰さない。むしろ全員が「よかった」と思える着地をつくる。そのために見た目や話し方にまで気を配り、「スナック感」と呼ぶ親しみやすさを意識して育ててきたと言います。気軽さは、自然体のようでいて、実は相手への深い配慮から生まれていたのです。
1を5に変える力が、言葉を組織の力に変えていく
コマツさんの話を聞いていると、趣味の旅やピアノ、DIY、そして仕事が、一本の線でつながっているように見えてきます。その線を言葉にするなら、「1を5にする力」かもしれません。休日には、自宅の庭を自分の手で丁寧に整える。20年離れていたピアノに再挑戦し、もう一度先生につき、毎日のように鍵盤に触れる。コマツさんは、自分でも「物を良くしたりとか環境を良くしたりとか、ワンランク上のものにしたい気持ちはあるのかもしれないですね」と語っています。
その改善の感覚は、仕事でも鮮やかに生きています。近年、コマツさんに増えている依頼は、完成形が決まった記事制作だけではありません。「まだ企画がまとまりきってないところから入ってほしい」「何をどう見せるか一緒に考えてほしい」。そんな“何も決まっていない現場”に呼ばれることが多くなったそうです。取材して終わりではなく、構成にも、見せ方にも、時には紙面の流れそのものにも踏み込む。つまり、言葉を書く人でありながら、情報を整理し、価値の見え方まで設計しているのです。
そして今、コマツさんの関心はさらにその先へ向かっています。最も得意としている採用インタビューは、採用のためだけにあるのではない。社員が自分の仕事を言葉にし、自分の会社を語ることは、組織の内側に誇りを生み、インナーブランディングにもつながる。コマツさんはそこに強い可能性を見ています。「楽しく話すことは結局、お客さんの会社のインナーブランディングにつながる」と。外に向けた発信が、同時に内側の結束を強める。言葉が人の意識を整え、やがて組織の空気まで変えていく。コマツさんが本当に届けているのは文章ではなく、会社の中に眠っていた“自分たちの言葉”なのかもしれません。
言葉を整えることは、未来の居場所を整えること
これからコマツさんが深めていきたいのは、中小企業の採用や定着、そして広報の土台づくりに伴走する仕事です。求人を出しても人が定着しない、自社の魅力をどう伝えればいいかわからない、理念はあるのに社員の言葉になっていない。そんな企業に対して、半年、一年という時間をかけながら、少しずつ言葉と関係性を整えていきたいと考えています。高額なコンサルティングではなく、もっと現場に近い距離で、でも確かに会社を変えていく支え方です。
コマツさんの歩みは、特別な才能の話ではありません。心地よく生きるために環境を整え、好きなことを続けるために現実も引き受け、人の中にある言葉を丁寧に扱ってきた、その積み重ねです。だからこそ、読者にも静かに届きます。大きく変えなくてもいい。まずは目の前の1を、5にしてみる。少し話しやすい場をつくる。少し誇りを持てる言葉を見つける。それだけでも、人の働き方も、組織の空気も、暮らしの手触りも変わり始めるのだと。
コマツさんがひらいているのは、インタビューの場だけではありません。人が自分の言葉を取り戻し、自分の居場所を少し好きになれる入り口です。その仕事はきっと、これからもっと多くの組織に必要とされていくはずです。