一歩を踏み出せる人の魅力
渋田さんの話を聞いていると、ひとつの肩書きではとても言い表せない広がりに驚かされます。固定費の見直しという生活に根ざした仕事を軸にしながら、福岡と大阪でダイニングバーを営み、探偵事務所を立ち上げ、占い師に特化したコミュニティを運営し、大阪ではイベント事業も手がけている。しかも、それらは思いつきの寄せ集めではありません。「楽しそう」「やってみたい」と感じた瞬間に、まず動いてみる。その軽やかさの奥には、状況が変わっても自分の足で立ち続けようとする強さがあります。コロナ禍で仕事が止まり、一度は「食っていかないといけない」と追い込まれたときでさえ、渋田さんは立ち止まるのではなく、「じゃあみんなで何ができるかな」と問い直しました。その視線は、いつも自分一人ではなく、目の前にいる人たちにも向いています。だからこそ、渋田さんの挑戦にはどこか温度があるのです。
挑戦をご縁に変える理由
渋田さんは、慎重に準備を整えてから動くタイプではありません。「ピンときたら行く」「失敗したらやめたらいい」。その言葉だけ聞くと大胆さばかりが際立ちますが、実際にはとても現実的です。独立してバーを始めたときも、店だけ先に決めて、あとは動きながら考えたといいます。大阪へ出たときも、「だめだったらすぐ帰ろう」と思っていたのに、気づけば3年が経っていた。その決断の速さは、無謀さというより、結果にしがみつきすぎない柔らかさから来ているように感じます。
ただ、渋田さんの面白さは、ゼロから一を生み出すことだけではありません。その一を、自分だけのものにしないところにあります。営業が苦手なスタッフがいれば、その人が活きる場所を考えてアパレルを始める。コロナで夜の仕事が難しくなれば、仲間たちとできる仕事を探し、探偵事務所をつくる。渋田さんにとって事業とは、儲かる種を探すこと以上に、人が生きる場所をつくることなのかもしれません。「人がいるから事業を作る」という言葉には、経営の理屈を超えた実感がにじんでいました。
達成の先にあった“空白”が、人生の意味を変えた
渋田さんの人生を貫く核は、あるときの気づきによって、よりはっきりしたものになりました。会社員を辞めるという夢を叶え、好きだったお酒の世界でバーを持つ夢も叶え、売上目標まで達成した。けれど、そのたびに待っていたのは満たされた安心感ではなく、「穴が開く」ような感覚だったそうです。達成した瞬間、気持ちがすっと下がってしまう。その繰り返しのなかで、渋田さんは自分に問いかけました。「自分って何がしたいんだろう」。そして辿り着いた答えが、「チャレンジしてる時が一番楽しいんだ」でした。
この一言は、とても本質的です。多くの人は、目標を達成した先に幸せがあると考えます。でも渋田さんは、達成ではなく、その途中にこそ自分の熱があることを見つけたのです。だから、ひとつの事業を一生守り続けることよりも、新しい挑戦の場をつくることに心が動く。ゼロイチが好きで、形になったら次の人に託す。ずっと同じ場所に居続けるより、変化の中にいるほうが自然でいられる。その感覚は、学生時代からすでに芽生えていました。「なんで学校に行かないといけないのかな」「なんで踊らないといけないんだろう」。みんなが当たり前として受け入れるものに、渋田さんはずっと“なぜ”を向けてきたのです。社会に馴染めないのではなく、自分の納得なしには動けない。その感覚があったからこそ、ブラックな職場にも長くは留まらず、自分の人生を自分で選び直してきました。
一方で、何事にも迷わない渋田さんが、唯一深く悩むのは「人」のことだといいます。人間関係や人事には心を砕き、相手の気持ちを考えすぎるほど考えてしまう。けれど、その繊細さがあるからこそ、求人を出さなくても人が集まり、また新しい縁が生まれていくのでしょう。直感で動く強さと、人に対しては立ち止まって考える優しさ。その両方を持っていることが、渋田さんの挑戦を単なる勢いで終わらせない理由なのだと思います。
挑戦の地平をひらく
いま渋田さんの視線は、日本の外へ向かっています。海外と日本をつなぐような仕事をしたい。しかも興味があるのは、すでに完成された国ではなく、「今から」の国です。発展の熱があり、まだ余白のある場所。その候補として、渋田さんはインドを見据えています。そこには、日本の閉塞感に対する率直な違和感もあります。「何でもダメ、あれもダメ、これもダメ」という窮屈さのなかで生きるより、もっと自分に合う空気のある場所へ行きたい。その感覚もまた、渋田さんらしい選択です。
けれど、この記事を通して見えてきたのは、渋田さんがどこへ行くか以上に、どんな姿勢で生きていくかでした。やってみたいと思ったら始める。違うと思ったらやめる。達成にしがみつかず、また次の挑戦へ向かう。そして何より、人が活きる場所をつくろうとする。その在り方は、先が見えにくい時代を生きる私たちに、ひとつの勇気を与えてくれます。人生は、完璧な答えを見つけてから進むものではないのかもしれません。まず一歩を出し、その先でまた考える。渋田さんの歩みは、そんなシンプルで強い真実を、軽やかに教えてくれています。