言葉を失っても、守りたいものは消えなかった
「自分より強いものは挫け。弱いものは命を張って守れ。」
石田志芳さんの原点は、母から叩き込まれたその一言にあります。芸能界での活動、企業研修、作家、シンガーソングライター、そして子どもの自殺を止める活動。肩書きは多岐にわたりますが、その中心にあるのは一貫した信念です。
その“声”を武器に生きてきた石田さんが、ある日突然、言葉を失いかけます。抗うつ剤の副作用による遅発性ジスキネジア。思うように発音できない。滑らかに話せない。歌うこともままならない。
「二度と歌えないと思いました」
プロとして積み上げてきた時間が、一瞬で崩れ落ちる感覚。それでも、守りたいものだけは消えませんでした。子どもたちの命。弱い立場にいる人たち。その存在が、絶望の淵に立たされた石田さんを再び立ち上がらせたのです。
もう一度、歌うと決めた瞬間
転機は、親友の何気ない一言でした。
「歌ってみたら?意外と歌えるんじゃない?だって、しほちゃんはプロだもん!」
半信半疑でマイクを握ったその日、驚くべき変化が起こります。言語障害になる前よりも、声が太く、響く。レコーディングに立ち会ったエンジニアが「奇跡ですよね」と声を漏らすほどの回復でした。
石田さんは、自らボイストレーニングを重ねながらリハビリを続けます。そして新たな楽曲が“降りてきた”と語ります。その想いはアレンジャーの手によって作品へと昇華され、再びレコーディングが始まりました。
同時に、別の挑戦も動き出します。重度の発達障害と感覚過敏を持つ自身と娘さんが「使える化粧品がない」ことに直面し、基礎化粧品の研究開発に乗り出したのです。
久米島まで足を運び、海洋深層水や独自成分を用いて商品化。原価を考えれば高価格帯になる品質を、あえて手の届く価格で提供しています。
「肌が弱い人が救われて、笑顔になるなら、それでいいんです」
利益よりも救済を優先する姿勢は、芸能活動でも、企業研修でも変わりません。パナソニックでの講演では社員全員の財布に「大切な人へのメッセージ」を入れさせ、20年以上にわたり救命講習も続けてきました。
困難を経験するたびに、石田さんは“守るための力”を磨いてきたのです。
再生の声で命を照らす実践者
石田さんの活動は、一見すると多岐にわたります。歌、講演、企業研修、化粧品開発、保育園立ち上げ、社会活動。
しかし、その根底に流れているのは、驚くほどシンプルな願いです。
「子どもの自殺を止めたい」
これまで1,000人を超える子どもたちと向き合ってきたと語る石田さん。不登校の子どもたちに居場所をつくり、16歳で就職できる仕組みを整える構想も進めています。経済的自立こそが尊厳を守る鍵だと考えているからです。
「一番弱いものにあたる社会はおかしい。本来、弱いものは命がけで守るものです」
自身も車椅子生活を経験し、社会の生きづらさを体感してきました。その痛みがあるからこそ、言葉には重みがあります。
ありがとうコンサートで母に向けて歌った「あなたを選んで生まれてきました」という楽曲。会場が涙に包まれたその瞬間、石田さんは気づいたといいます。
人は追い込まれると弱い存在にあたってしまう。でも本当は、守りたいのだと。
弱さは否定されるものではなく、守るべき尊いもの。その視点を取り戻すことこそが、社会を変える第一歩なのかもしれません。
声が広げる、守り合う未来へ
現在、石田さんは企業向けメンタルカウンセラーとしての活動、子どもたちの居場所づくり、そして歌と講演を通じたメッセージ発信を続けています。
「車の前に子どもが飛び出したら、身代わりになれる人間になってほしい」
強い言葉です。しかしそこには、守る覚悟を持つ人が増えれば社会は変わるという確信があります。
私たちは日々、誰かより少しだけ強い立場に立つ瞬間があります。そのとき、挫くのか、守るのか。選択は常に私たちの手の中にあります。
守るという行為は、特別な英雄だけのものではありません。ほんの少し、誰かの前に立つ勇気から始まります。
石田志芳さんの声は問いかけています。
あなたは、誰を守りますか。