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大阪の現場に未来の仕組みを届ける人

大阪の現場には、まだ伸びしろが眠っている

東大阪の工業団地を歩き、町工場の扉を一軒ずつ開けていた頃、尾嵜聡さんは現場の熱気と同時に、あるもどかしさを感じていました。

人材派遣の営業として訪れた先では、派遣された人たちが手書きの帳票に向かい、エクセルをぽちぽちと触りながら業務を管理していました。ものづくりの現場には確かな技術があり、働く人の誠実さがありました。けれど、その力を支える仕組みは、まだ十分に整っていなかったのです。

その後、IT業界に入った尾嵜さんは、大手企業の社内業務がグループウェアでつながり、スケジュール管理や申請がパソコン上で完結する光景に衝撃を受けます。

「これは勝てんわなと思いました」

その驚きは、単なる便利さへの感動ではありませんでした。大阪の中小企業が本来持っている力を、ITによってもっと引き出せるのではないか。尾嵜さんの中に、街の底上げへ向かう思いが静かに芽生えていきました。

現場を知る人だからこそ、課題の奥にある声を聞きに行く

尾嵜さんは、20年ほどIT業界で営業、採用、開発、人事、経営まで幅広く経験してきました。けれど、その根っこにあるのは、技術そのものへの憧れだけではありません。人の仕事を少しでもスムーズにしたいという、現場に向けられたまなざしです。

大学時代には、野球サークルの打撃成績をエクセルでまとめ、打球方向や何球目に打ったかまで分析していました。数字を並べるだけではなく、そこから傾向を見つけ、意味を読み解くことが面白かったといいます。

今もその感覚は生きています。案件情報や人材情報をAIに読み込ませ、ニーズはあるのに人材供給が足りていない領域を分析する。必要であれば、その結果をもとに求人につなげる。尾嵜さんにとってITは、派手な技術を見せるためのものではなく、目の前の困りごとをほどくための道具です。

「作るところには、そんなに興味はないんです。課題解決のためにやっているので」

その言葉には、技術者でありながら、技術の前に人を見る姿勢が表れています。フルスクラッチ開発でも、尾嵜さんが大切にしているのは、まず顔を合わせて要件を聞くことです。何を作るかの前に、なぜ必要なのかを聞く。その積み重ねが、現場に届くシステムを生み出してきました。

地元を応援する気持ちが、仕事にも人生にも一本の軸を通す

尾嵜さんの物語をたどると、何度も「地元大阪」という言葉に戻ってきます。

かつては近鉄バファローズのファンでした。球団がなくなり、しばらくは応援する場所を失ったような感覚もありました。そんな中、甲子園のライトスタンドで地元球団を熱く応援する人たちの姿に触れ、「やっぱりこれやな」と感じたといいます。

その後、サッカーに誘われ、セレッソ大阪と出会いました。今では年間シートを買い、ホームゲームに足を運ぶ時間を惜しまないサポーターです。

「地元のチームを熱くなって応援する。それがスポーツの醍醐味やなと思って」

この感覚は、尾嵜さんの仕事にもつながっています。大阪には、まだIT化しきれていない中小企業がたくさんある。けれど、そこには技術があり、経験があり、人の力があります。だからこそ、外から正解を押しつけるのではなく、地元の企業が自分たちの強みを活かせるように支援したい。その思いが、尾嵜さんの挑戦を支えています。

また、異業種の人たちが持つアイデアにも強い関心を寄せています。たとえば、外国人就労に関する仕組みや、名刺をAIで解析してタグ付けし、顧客管理につなげるシステム。業界の中にいる人だからこそ見えるニーズを、ITの力で形にしていくことに面白さを感じています。

「異業種の方のアイデアって面白いんですよね。その業種に専門でされているからこそ気づけるニーズがあるので」

課題は、外から見ると小さく見えることがあります。けれど当事者にとっては、毎日の仕事を左右する大きな壁です。尾嵜さんは、その壁の前に立つ人の声を聞き、仕組みに変え、また次の気づきを得ていきます。

仕事も記憶も、次の世代へつなぐ地域の物語

尾嵜さんには、いつか実現したい夢があります。藤井寺球場をVRで再現することです。

近鉄バファローズを応援していた頃の記憶を、もう一度立体的に味わえるようにしたい。写真だけでは足りない部分がある。設計図や三面図があれば、もっと正確に再現できるかもしれない。そう話す尾嵜さんの声には、技術者としての好奇心と、かつてのファンとしての切実さが重なっています。

「昔の野球ファンに味わってもらう。音声とか流したら、多分泣いちゃうと思うんです」

この夢は、尾嵜さんという人をよく表しています。便利にするだけではなく、人の記憶や感情まで、技術でそっとすくい上げようとする姿勢です。

大阪の中小企業をITで支援することも、失われた球場をVRでよみがえらせることも、根本には同じ思いがあります。大切なものを置き去りにしないこと。人や地域が持つ力を、次の形へつなげること。

ビジネスの現場で私たちが学べるのは、課題解決の出発点はいつも「ちゃんと見ること」だということです。現場を見る。人の声を聞く。自分が心を動かされた原体験を忘れない。

尾嵜さんは今日も、パソコンに向かいながら、誰かの困りごとを少し先の未来へ変えようとしています。その積み重ねで、大阪の街に新しい可能性を灯していきます。