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村田美樹さんが築く ご縁が続く居場所

長くつながる場を求める人へ

大阪・心斎橋で、一年を通して牡蠣を味わえる居酒屋を営む村田美樹さん。その珍しさはたしかにお店の大きな魅力ですが、話を聞いていると、村田さんが本当に届けたいものは別のところにあるのだと気づかされます。村田さんが目指しているのは、ただ料理を出すことではありません。「明日への活力を充電できるような人を増やしたい」。その言葉の通り、食事の時間そのものを、人が少し元気を取り戻せる場にしたいという思いが、お店の根っこにあります。20年近く飲食の仕事に携わり、自分の店を持って7年目。チェーン展開でもなく、規模の拡大でもなく、「1店舗でいいので、長く続けたい」と語る村田さんの言葉には、派手さよりも深さがありました。

ご縁を育てる店の意味

長く続けたい。その思いは、理想だけで生まれたものではありません。村田さんは、飲食業界の厳しさをよく知っています。長い労働時間、多いタスク、そして人を育てても、その関係が永遠ではない現実。雇われる立場で経験したことも、自分で従業員を抱えた経験もあるからこそ、「人の人生を背負うことの重さ」を実感してきました。だからいまは、無理に従業員を増やすのではなく、自分が責任を持てる形で店を守る道を選んでいます。

その一方で、村田さんの仕事はとても柔らかい温度を持っています。12種類もの調理法で牡蠣を提供し、希望があれば仕入れから工夫し、メニューにない料理にもできる限り応える。「お家のお母さんだと思ってくれたらいいかな」という言葉には、店主としての誇りと、相手に合わせて差し出す優しさがにじみます。復興支援につながる東北の牡蠣を扱っているのも、一時的ではない、長く続く関わり方を選びたいからでした。村田さんにとって“続ける”とは、営業年数の話ではなく、思いを持って関係を育てていくことなのかもしれません。

料理を超えて、人と人を円滑につなぐ場所へ

村田さんのお店のコンセプトには、「叶えや」という名前があります。そこには、口に人を足して、物事を円滑に回したいという思いが込められているそうです。この発想がとても象徴的です。村田さんがつくりたいのは、食べる場所であると同時に、人と人の流れがやわらかく生まれる場所なのです。

実際、その場にはすでにそんな空気が育っています。最初は職場の人と来たお客様が、次は家族を連れてくる。紹介が広がり、男女問わず、食べることが好きな人たちが集まってくる。さらに、占い師との月1回のコラボイベントでは、料理そのものを選択肢にして楽しんでもらうという、ほかにはない試みも続けています。自分一人で全部を抱え込むのではなく、相手の夢を応援しながら、自分の店にも新しい風を通していく。その姿勢には、商売のうまさ以上に、人との関係を耕していく感覚があります。

だからこそ、村田さんが最後に「探しているもの」として挙げたのが、「長く付き合っていけるご縁」だったことは、とても自然に思えます。良いご縁でなければ長く続かない。仕事でも、プライベートでも、その感覚は同じなのでしょう。人が離れていくこともある、環境が変わることもある。そんな前提を知りながら、それでもなお、共感できる人たちとつながる場を育てていく。その営みそのものが、村田さんの店の価値になっています。

関係が育つ社会の入口へ

村田さんの話を聞いていると、店とは料理や空間だけでできているのではなく、そこで交わされる気持ちの積み重ねで形づくられていくものなのだと感じます。目の前のお客様に合わせて一皿を考えることも、勉強のために食べ歩きを続けることも、自分の機嫌を自分で取りながら現場に立ち続けることも、すべては「長く続ける」ための工夫でした。

ビジネスにおいて、つい拡大や効率に目が向きがちな時代です。それでも村田さんは、あえて一店舗を深く育てる道を選んでいます。その姿は、規模ではなく関係性に価値を置く働き方の一つの答えにも見えます。良いご縁は、偶然落ちてくるものではなく、日々の姿勢の中で少しずつ育っていくもの。村田さんのお店は、そのことを静かに教えてくれる場所なのだと思います。