気合いだけでは越えられない壁の前で
大阪で、コーチングとグラフィックデザインという二つの仕事に向き合う丸山健さん。和歌山で長く暮らし、デザイン事務所を営んできた丸山さんは、2年前、息子さんの高校進学をきっかけに家族で大阪へ移り住みました。
現在は奥さまと息子さん、そして2匹の猫と暮らしています。猫たちは「僕には全然懐かない感じです」と笑う丸山さんの言葉には、どこか柔らかなユーモアがあります。
そんな丸山さんがいま大切にしているのは、人が自分の強みに気づき、自分らしい道を歩み直すことです。
しかし、その原点には、順調なキャリアだけでは語れない時間がありました。2007年に独立し、グラフィックデザイナーとして走り続ける一方で、経営や数字、営業には苦手意識がありました。やがて事業を続けること自体が難しいのではないかと思うほど、行き詰まりを感じる時期が訪れます。
そのとき丸山さんは、顧問税理士から「一度、自分自身を振り返って見直してみたら」と声をかけられました。そこで初めて出会ったのが、コーチングでした。
疑いから始まった、問いの世界への一歩
当時の丸山さんにとって、コーチングは決して身近なものではありませんでした。
「なんで人にそういうことを話さなあかんのか。うさん臭い占いみたいなの受けんねん、と思っていました」
自分のことは自分が一番わかっている。気合いで乗り切ればいい。そんな昭和的な価値観を持っていたと、丸山さんは当時を振り返ります。
けれど、実際にコーチングを受けてみると、その印象は大きく変わりました。質問を重ねられるなかで、自分が本当は何を感じ、どこで無理をしていたのかが見えてきたのです。
「全然自分らしく生きれてないな、ずれた頑張り方をしてきたな、と気づきました」
その気づきは、丸山さんにとって痛みを伴うものでした。同時に、もう一度やり直せるという希望でもありました。
「もう一回、自分らしく生き直そうと思えたんです」
さらに丸山さんを惹きつけたのは、コーチングという技術そのものでした。質問だけで、人の内側に深い気づきを生み出す。その力に衝撃を受け、「自分もできるようになりたい」と強く思うようになります。
デザインの世界に入ったきっかけも、高校時代の美術の授業でした。油絵や写生ではなく、色や文字を組み合わせるグラフィックデザインに触れ、「かっこいい世界だ」と感じたことから、デザインの道を歩み始めます。
見えるものを整えるデザインから、見えない心の輪郭を扱うコーチングへ。丸山さんの歩みは、一見離れているようで、実は深くつながっていました。
人の強みを掘り起こし、人生をデザインする
丸山さんのコーチングの特徴は、目標達成だけにとどまりません。感情との付き合い方、心のあり方、そしてビジネスの進め方。その両方を扱えることに強みがあります。
特に現在は、女性経営者や女性のセールス職の方を中心にサポートしています。背景には、仕事以外にも多くの役割を抱えながら、それでも自分のビジネスを伸ばしたいと願う人たちへのまなざしがあります。
「売上だけ上げようぜ、ではなかなかならないところがあります。人生そのものをサポートしていくところでは、コンサルとは役割が違うと思っています」
丸山さんが得意とするのは、その人自身も気づいていない強みを見つけ出すことです。
あるクライアントは、自分のことがあまり好きではなく、自撮りや発信にも強い抵抗がありました。しかし、自分の強みを認識し、表現の仕方を少しずつ変えていくうちに、最後には業者に依頼して自分のストーリームービーを制作し、発信するまでに変化したといいます。その発信が契約にもつながっていきました。
また、保険の仕事をしていた女性には、元自衛官という経歴がありました。本人にとっては当たり前の経験でも、丸山さんはそこに独自性を見出します。自衛官仲間の相談に乗るという形で対象を絞ることで、ビジネスの方向性が明確になり、新たな反応が生まれていきました。
「自分で当たり前と思っていることが、人から見たらすごい強みってことがあります。それを掘り起こして、言語化して、サービスとしてやっていく。そこは得意なんだと思います」
グラフィックデザインでは、どこを目立たせ、何を伝えるかを見極めます。丸山さんのコーチングもまた、人の人生やビジネスの中から、本当に輝くポイントを見つけ、際立たせる営みなのかもしれません。
それは、単に成功へ導く技術ではありません。自分の過去も、弱さも、遠回りも含めて「これでよかった」と思えるように再構成する力です。だからこそ、丸山さんのセッションは、体験した人の心を動かします。
人生をデザインし直す未来へ
いま丸山さんが見据えているのは、自分一人が動き続ける形から、コーチたちが育ち、それぞれの場所で活躍できる仕組みをつくることです。
「いい意味で、自分が動かなくていい状況を作っていきたい。そのうえで、新しいことをやっていきたいんです」
その先にあるのは、講演やお話し会のような活動です。これまでの経験を全国で語り、それが誰かの気づきや一歩につながればいい。丸山さんは、そんな未来を描いています。
コーチング、心理学、哲学、仏教、そして量子力学や見えない世界への興味。丸山さんの探求は、いつも「人はどう生きるのか」という問いにつながっています。
一度立ち止まることは、敗北ではありません。むしろ、自分らしく生き直すための始まりになることがあります。
丸山さんの歩みが教えてくれるのは、強みは遠くに探しに行くものではなく、自分が当たり前だと思ってきた経験の中に眠っているということです。
自分では価値がないと思っていたこと。人に見せたくなかった弱さ。遠回りに見えた時間。その一つひとつが、誰かの役に立つ力へと変わっていく。
丸山健さんは今日も、人の内側にあるまだ言葉になっていない可能性を見つめながら、その人らしい未来の輪郭を描き出しています。